コンセプト
 織物や器に施された文様から構造を見出し、絵画に応用しようと試みている。 
 そのきっかけは、大学院で掛軸を制作した際、絵の周りに配した裂地の方が作品よりも完成度が高く見えたことだった。 文様は織物や器の一部として見られることが多い印象がある。しかし、その位置にその形がなくてはいけない必然性があり、文様の中から一つでも要素(花や葉)を取り除くと不自然に見える。絵画にはない完成度を文様が持っていると思われた。こうしたことから、絵画の周りに配置されている文様を絵の中に取り込む案を着想した。 
 そこで古典的な文様である唐草文様を観察し、いくつかの基本的な構造を発見した。このように構造を分析し、要素を分解し、再構成することは、絵画制作の基本ではないだろうか。それぞれの文様には共通した構造があるという仮説を立て、その構造を絵画に取り込むことで新しい視覚表現を模索している。 
 制作には絹や天然岩絵具などの東洋古典絵画に用いられた技法や素材を使用している。かつて使われていた技法には他の材料では置き換えられない効果がある。それと同時に、その技法でしか表せなかった概念や目的が存在していた可能性がある。かつて南北朝時代の仏画を模写した際に、時間のかかる截金技法が選択された理由は強い光を表現するためではないかと推測した。近代以前の絵画や文様などの視覚表現に用いられた技法と構造を復活させることで、その技術によって支えられていた概念を見出せるのではないかと考えた。古典技法で制作を続けることで、失われた技術や概念を取り出し更に発展させていきたい。